小規模企業共済は、個人事業主や会社の役員が「自分の退職金」を積み立てながら、掛金の全額を所得控除にできる制度として広く知られています。節税と老後資金づくりを同時にできるため、経営者に人気の高い制度です。ただし、加入前に押さえておきたいのが「出口」——つまり、積み立てたお金を受け取るときのルールです。
受け取り方によっては税金の扱いが変わり、途中で自己都合の解約をすると元本割れしてしまうこともあります。さらに、掛金として払ったお金は預金のように自由に引き出せるわけではありません。この記事では、小規模企業共済の仕組みとメリットを正確に押さえたうえで、任意解約の元本割れや出口の税金といったデメリット・注意点を、税理士がわかりやすく解説します。
小規模企業共済とは?経営者の「退職金づくり」の仕組み

まずは、小規模企業共済がどんな制度なのかを整理します。運営しているのは、経営セーフティ共済と同じく独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)です。
個人事業主・役員のための「積み立てによる退職金制度」
中小機構の解説によると、小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。会社員のように退職金制度が用意されていない個人事業主や小さな会社の経営者が、廃業や引退に備えて自分でお金を準備するための仕組み、と考えるとわかりやすいでしょう。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」
掛金は月1,000円〜7万円・全額が所得控除になる
掛金の額は、中小機構の解説によると、月額1,000円から7万円までの範囲で、500円単位で自由に設定できます。そして税制面では、支払った掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、その年に支払った全額を所得から差し引けます。この所得控除があるため、加入している間は毎年の所得税・住民税の負担を抑えながら、老後の資金を積み立てられる点が大きな魅力です。
出典:国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」(控除額はその年に支払った掛金の全額)
小規模企業共済は、退職金のない個人事業主や一人社長にとって、老後資金づくりと節税を両立できる数少ない制度です。掛金を月1,000円から始められる手軽さもあり、私も制度としては前向きにご案内することが多い共済です。ただし、後で説明するとおり「入口」だけでなく「出口」まで理解しておくことが大切です。
メリットは掛金の「所得控除」——事業の経費とは違うという正しい理解

小規模企業共済でまず正しく理解しておきたいのが、掛金が「事業の経費」ではなく「経営者個人の所得控除」だという点です。ここを取り違えると、似たような制度と混同してしまいます。
掛金は会社や事業の「経費」にはならない
小規模企業共済の掛金は、契約者本人の名義の口座から支払い、その人の所得から控除する仕組みです。つまり、掛金は会社の損金や事業の必要経費になるのではなく、経営者個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)として、その人の課税所得を下げるという形で効いてきます。同じ中小機構の共済でも、法人の損金・個人事業主の必要経費になる経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは、節税の効き方がまったく異なります。取引先の倒産に備える経営セーフティ共済の仕組みと出口の注意点は
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経営セーフティ共済のデメリット|解約の「出口」で増税になるケースと資金拘束の注意点
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金を全額経費にできる「節税になる制度」として紹介されることの多い共済です。取引先の倒産に備えながら、掛金の分だけその期の利益を圧縮できるため、法人・個人 ...
でくわしく解説していますので、あわせてご覧ください。
出典:国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」(控除できるのは小規模企業共済法の共済契約の掛金/控除額はその年に支払った掛金の全額)
小規模企業共済と同じく老後資金を積み立てる制度でも、iDeCoは経営者個人の所得控除、企業型DCは会社の損金になるため、掛金・税制・手数料の違いは比較記事で整理しています。
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マイクロ法人は企業型DCとiDeCoどっち?一人社長の掛金・税制・手数料を比較
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出口(受け取り)にも税金がかかる——ただし退職所得なら優遇されやすい
所得控除で毎年の税負担を抑えられる一方、積み立てたお金を受け取るときには税金がかかります。中小機構の解説によると、共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いに、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになります。退職所得は、退職所得控除や課税対象が原則2分の1になる計算など、税制上とても優遇されているため、受け取り方が退職所得になれば、出口の税負担は比較的軽くなりやすいのが特徴です。この「入口は所得控除、出口は退職所得」という流れをうまく使えるかどうかが、この制度の肝になります。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」(一括受取りは退職所得扱い・分割受取りは公的年金等の雑所得扱い)
「掛金が経費になる」と説明されることがありますが、正確には経営者個人の所得控除です。法人の経費になる経営セーフティ共済と混同すると、資金繰りや決算の見通しを立てるときに計算が合わなくなります。私はご相談のとき、この2つの共済は「効く場所が違う別物」として整理してご説明しています。
20年未満の任意解約は元本割れ・12か月未満は掛け捨て——資金拘束のデメリット

メリットの大きい制度ですが、見落とせないデメリットが「資金拘束」です。掛金として払ったお金は、預金のように好きなときに全額を引き出せるわけではありません。
掛金納付月数が短いと元本割れ・掛け捨てになる
中小機構の解説によると、自己都合で解約(任意解約)した場合、掛金納付月数が240か月(20年)未満だと、受け取れる解約手当金は掛金合計額を下回ります。つまり、20年より前に自己都合でやめると、払った掛金より受け取り額が少なくなる元本割れの状態になります。さらに、掛金納付月数が12か月未満の場合は解約手当金を受け取れず、納めた掛金は掛け捨てになります。「いつでもやめれば全額戻ってくる」制度ではない、という点は必ず押さえておく必要があります。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「解約手当金の額の算定方法」(12か月未満は掛け捨て・240か月〈20年〉未満の任意解約は掛金合計額を下回る)
「所得控除になるお金」は「当分引き出せないお金」でもある
小規模企業共済は老後の退職金づくりが目的の制度なので、長く続けることを前提に設計されています。目先の節税のために資金繰りに無理のある掛金を設定すると、途中でお金が必要になったときに、元本割れを覚悟で解約せざるを得ない事態になりかねません。なお、掛金の範囲内で借りられる契約者貸付制度があり、中小機構の解説によると、一般貸付では掛金納付月数に応じて掛金の7〜9割の範囲で借入れができます。とはいえ借入れはあくまで一時的な資金対応であり、掛金そのものが自由に使えるわけではありません。日々の資金繰りを見える化して無理のない掛金額を決める方法は
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資金繰り表の作り方|小さな会社がエクセルでやる最低限の資金管理
「利益は出ているはずなのに、月末になるとお金が足りない気がする」。小さな会社やひとり社長の方から、当事務所でもよくいただくご相談です。その不安を解消する最初の一歩が、資金繰り表を作ることです。結論から ...
で解説しています。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「契約者貸付の概要」(一般貸付は掛金納付月数により掛金の7〜9割の範囲で借入可能)
「掛金は上限の月7万円まで掛けたい」というご相談はよくありますが、私はまず資金繰りを確認してから掛金額を決めることをおすすめしています。20年という据置期間は長く、その間に事業環境が変わることもあります。無理なく続けられる額から始めて、余裕が出てきたら増額する、という進め方が安心です。
出口の税金は受け取り事由で変わる——自己都合の解約は一時所得になりやすい

小規模企業共済の「出口」でとくに注意したいのが、どんな理由で・何歳で受け取るかによって、税金の種類(所得区分)が変わるという点です。
廃業・退任・65歳以上の受け取りは退職所得(優遇)
中小機構の解説によると、共済金や準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いになります。共済金は、個人事業の廃業、会社の解散、65歳以上での役員退任などの事由で受け取れるお金で、これらを一括で受け取れば、退職所得として税制上の優遇を受けやすくなります。また、65歳以上で任意解約した場合の解約手当金も、退職所得扱いになります。制度が本来想定している「引退・廃業に伴う受け取り」であれば、出口の税金は軽くなりやすい設計です。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「共済金等請求・解約」(共済金・準共済金の一括受取と65歳以上の任意解約は退職所得扱い)
退職所得がどのように優遇されるのかというしくみと、共済金のほかに会社からの退職金なども近い時期に受け取る場合の注意点は、次の記事でくわしく解説しています。
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65歳未満の自己都合による任意解約は「一時所得」
一方で注意したいのが、65歳より前に自己都合でやめる場合です。中小機構の解説によると、65歳未満の方が任意解約したときの解約手当金は一時所得扱いになります。一時所得は退職所得とは計算方法が異なり、退職所得ほどの手厚い優遇はありません。つまり、資金が必要になって早期に自己都合で解約すると、元本割れに加えて、出口の税金の面でも退職所得より不利になりやすいのです。良い節税・悪い節税や「課税を将来に回す」という考え方の整理は
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「決算前に利益が出そうだから、車でも買って節税しようか」。決算期が近づくと、経営者からよくいただくご相談です。たしかに4年落ちの中古車を買うと大きな減価償却費を計上でき、その年の利益を圧縮できます。し ...
でも解説していますので、あわせてご覧ください。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「共済金等請求・解約」(65歳未満の任意解約による解約手当金は一時所得扱い)
同じ「受け取り」でも、廃業や引退に伴うものか、途中の自己都合解約かで、税金の扱いは大きく変わります。個別の税額は、ほかの退職金や所得の状況によっても変わるため、受け取りを考える段階で一度シミュレーションしておくと安心です。実際の手続きの際は、中小機構の最新の案内や国税庁の公式情報もあわせてご確認ください。
出口で損しないために——加入前に「受け取り方」まで考える

ここまで見てきたとおり、小規模企業共済はメリットの大きい制度ですが、途中でやめると元本割れや税金面の不利が生じます。最後に、出口で損をしないための一般的な考え方を整理します。
掛金は資金繰りに無理のない額から始める
まず大切なのは、20年以上続けることを前提に、資金繰りに無理のない掛金額から始めることです。掛金は月1,000円から500円単位で設定でき、あとから増額・減額もできます。目先の所得控除の大きさだけで上限まで掛けるのではなく、途中でやめずに続けられる額にとどめておくと、元本割れのリスクを避けやすくなります。
出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」(掛金は月額1,000円〜7万円・500円単位で自由に設定)
受け取りの事由とタイミングを見据えておく
そのうえで、加入の段階から「どんなときに・どう受け取るか」をイメージしておくことが重要です。廃業や引退に伴って一括で受け取れば退職所得として優遇を受けやすい一方、65歳前の自己都合解約では一時所得になり、優遇は薄れます。どの受け取り方が有利かは、退職所得控除の枠や、ほかの退職金・所得の状況によっても変わるため、個別の事情によって結論が変わります。法人化やマイクロ法人を検討している段階の方は、法人成り時に加入資格を失うと準共済金の扱いになる点もあるため、判断の目安をまとめた
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法人成りのタイミングはいつがベスト?所得・売上・消費税インボイス・社会保険の4つの目安から、個人事業主が法人化すべきかの判断基準を税理士がわかりやすく解説。マイクロ法人のデメリットも紹介します。
もあわせてご覧ください。
小規模企業共済は、正しく使えば「毎年の節税」と「退職金づくり」を両立できる、とても優れた制度です。ただし、その効果を最大限に受け取れるかどうかは出口で決まります。加入前に「20年以上続けられるか」「どんな形で受け取るか」まで一緒に考えておくと、出口で後悔しにくくなります。
まとめ|小規模企業共済は「入口の節税」より「出口の受け取り方」
小規模企業共済のメリットと出口の注意点について、要点を振り返ります。
小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になるという入口の分かりやすさから加入されがちですが、本当に大切なのは出口の受け取り方です。「経費ではなく所得控除」であること、20年未満の任意解約は元本割れになること、そして受け取り事由によって退職所得か一時所得かが変わることを踏まえ、加入前に出口までイメージしておくことが、制度のメリットを最大限に活かす第一歩になります。
当事務所では、青森市・青森県全域・全国のお客さまに、オンラインで税務・経営のご相談を承っています。「小規模企業共済に入るべきか」「いくらまで掛けてよいか」「いつ・どう受け取ればよいか」といった段階からで大丈夫です。目先の所得控除だけでなく、出口の税負担や資金繰り、ほかの制度との兼ね合いまで含めて、無理のない使い方を一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。
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