決算前の利益調整、未払費用と不良在庫の処分の税務上の注意点を解説する記事のアイキャッチ

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決算前の利益調整はどこまで?未払費用・不良在庫の処分と税務の注意点

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税理士 田澤壱高

青森市を中心に活動する、ひとり税理士です。 クラウド会計・オンラインでのやり取りを基本とし、 記帳や資料管理の手間をできるだけ減らすことを大切にしています。 完全なペーパーレス運用を目指しながら、 経営判断に集中できる環境づくりを支援します。

決算が近づくと、「今期は利益が出そうだから、何か対策を打っておきたい」というご相談が増えます。決算前にできる利益調整として、よく話題にのぼるのが「未払費用の計上」や「不良在庫の処分」です。ただし、これらは何でも自由に当期の費用にできるわけではなく、法人税法や通達で認められる範囲が決まっています。範囲を外れた計上は、税務調査で否認され、かえって追徴税や加算税につながることもあります。

この記事では、決算前の利益調整として使われる未払費用と不良在庫について、どこまでが適正で、どこからが危ういのか——その線引きと注意点を、一次情報にもとづいて税理士がわかりやすく解説します(令和8年時点の情報です)。

決算前の「利益調整」で大切な考え方——税金の繰り延べと恣意的な操作は違う

はじめに、決算前の利益調整をどう捉えればよいのか、大前提を整理します。ここを取り違えると、「節税のつもり」が「否認されるリスクのある処理」に変わってしまいます。

認められるのは「当期に帰属する費用・損失」を正しく計上すること

法人税は、各事業年度の所得(もうけ)に対して課税されます。所得は、その事業年度に帰属する益金(収益)から、その事業年度に帰属する損金(費用・損失)を差し引いて計算します。つまり、決算前にできる適正な利益調整とは、本来その事業年度に帰属すべき費用や損失を、漏らさず正しく当期に計上することにほかなりません。まだ発生していない来期以降の費用を先取りしたり、実態のない損失を作り出したりすることは、利益調整ではなく「所得の圧縮」であり、認められません。

「税金の繰り延べ」であって「税金が消える」わけではない

もう一つ押さえておきたいのが、こうした費用の前倒し計上の多くは「税金の繰り延べ」だという点です。今期の費用を増やせば今期の税負担は下がりますが、その分、翌期以降の費用は減ります。トータルで支払う税金が消えてなくなるわけではありません。無理な費用の前倒しで手元の現金を減らしてしまうと、資金繰りをかえって苦しくすることもあります。良い節税と悪い節税の違いや、「課税を将来に回す」ことの意味は

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でくわしく解説していますので、あわせてご覧ください。

税理士田澤
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決算前のご相談で私が最初にお伝えするのは、「利益を消すのではなく、当期に属する費用を正しく計上する」という考え方です。税金の繰り延べは資金繰りの助けになることもありますが、それ自体が目的になると本末転倒です。まずは、その費用や損失が本当に当期のものかどうかを一緒に確認するようにしています。

未払費用・未払金は「債務が確定しているか」で決まる——債務確定基準の3要件

決算前の利益調整でまず検討されるのが、まだ支払っていない費用(未払費用・未払金)の計上です。ポイントは「債務が確定しているかどうか」にあります。

償却費以外の費用は「債務確定基準」で損金の時期が決まる

法人税では、償却費以外の費用は、その事業年度終了の日までに債務が確定していなければ、その事業年度の損金にできません。国税庁の解説によると、債務が確定しているというためには、次の3つの要件のすべてに該当する必要があります

  • その事業年度終了の日までに、その費用に係る債務が成立していること
  • その事業年度終了の日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
  • その事業年度終了の日までに、その金額を合理的に算定することができること

たとえば、期末までに実際に修理を発注して作業が完了し、金額の見積りも客観的にできる状態であれば、まだ支払っていなくても未払金として当期の損金に計上できます。逆に、「来期やる予定の工事」を見込みで計上することはできません。

「支払いが済んでいるか」ではなく「債務が確定しているか」

ここで大切なのは、損金にできるかどうかの基準が「お金を払ったかどうか」ではない、という点です。実際に役務の提供や物品の引渡しを受けて債務が確定していれば、期末時点で未払いでも当期の損金になり、逆に前払いしていても役務提供が翌期なら原則は当期の損金になりません。決算前に「とりあえず払っておけば経費になる」と考えて支払っても、それだけでは当期の損金にならないケースがあるため、注意が必要です。

税理士田澤
税理士田澤

「決算前に払えば経費になりますか?」というご質問はとても多いです。答えは「払ったかどうかではなく、当期中に債務が確定しているかどうかで決まります」です。請求書や契約書、納品・作業完了の記録など、債務が確定したことを示す資料をそろえておくと、後から説明しやすくなります。

短期前払費用の特例——1年以内の前払いを当期の損金にできる場合・できない場合

前払費用は本来、役務の提供を受けた事業年度の損金にしていくのが原則です。ただし、一定の要件を満たす短い期間の前払いについては、支払った事業年度に一括で損金算入できる特例があります。

短期前払費用として認められる要件

国税庁の解説によると、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した前払費用のうち、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るもので、その支払った額を継続してその支払った事業年度の損金の額に算入している場合には、その全額を支払時の損金にできます。たとえば、毎年支払っている家賃や保険料などを、期末にまとめて向こう1年分前払いし、その処理を毎期継続する、といったケースが典型です。

「毎期継続」が前提・収益に対応させるべきものは対象外

注意したいのは、この特例が「その年だけ都合よく使う」ことを認めるものではない点です。特例を使うには、いったんこの方法を採用したら毎期継続して適用することが前提になります。今期は前払いで一括計上し、来期は元に戻す、といった利益調整のための使い分けはできません。また国税庁の解説では、借入金を預金や有価証券などで運用する場合のその借入金の支払利子のように、収益と対応させる必要があるものは、たとえ1年以内の前払いでも支払時の損金にはできないとされています。等質・等量のサービスを継続的に受けるものかどうかも、あわせて確認が必要です。

税理士田澤
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短期前払費用の特例は便利ですが、「一度使ったら毎期続ける」のが約束事です。決算のたびに使ったり戻したりはできません。また、金額が大きい前払いは、資金繰りへの影響も見ておく必要があります。導入するかどうかは、継続できる無理のない範囲かどうかで判断するのがおすすめです。

不良在庫の「評価損」は認められる事実が限定されている——単なる値下がりでは計上できない

売れ残った在庫を抱えていると、「時価が下がった分を評価損として落とせないか」と考えたくなります。しかし、棚卸資産の評価損は、法人税法上、認められる事実がはっきりと限定されています。

評価損を計上できるのは「一定の事実」がある場合だけ

法人税法では、資産の評価換えによる評価損は原則として損金になりません。例外として、棚卸資産については、法人税法第33条第2項と法人税法施行令第68条にもとづき、災害により著しく損傷したこと、著しく陳腐化したこと、これらに準ずる特別の事実があって時価が帳簿価額を下回った場合に、評価換えして損金経理により帳簿価額を減額したときに限り、その差額を評価損として損金にできます。ここでいう「著しい陳腐化」には、たとえば、季節商品が売れ残って今後通常の価額では販売できないことが明らかな場合や、性能・品質が著しく異なる新製品が発売されて従来品を通常の方法で販売できなくなった場合などが含まれます。また「これらに準ずる特別の事実」には、破損や型崩れ、たなざらし、品質変化などによって通常の方法で販売できなくなった場合が含まれます。

「ただ売れ行きが悪い・値下がりした」だけでは評価損にできない

ここが決算前にとくに誤解されやすいところです。国税庁の通達では、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損を計上できる事実には該当しないとされています。つまり、「思ったより売れ行きが悪い」「相場が下がった」「作りすぎて値崩れした」といった理由だけで、期末に在庫の評価額を勝手に引き下げて損金にすることはできません。評価損は"値段が下がった気がするから"で計上できるものではなく、通達で認められた事実があり、かつ帳簿価額を実際に減額(損金経理)していることが前提です。安易な評価損は、税務調査で否認される典型例の一つです。

税理士田澤
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「売れ残った在庫を評価損で落としたい」というご相談では、まず「なぜ価値が下がったのか」を確認します。災害や品質劣化、モデルチェンジによる陳腐化など、通達に沿った事実があるかどうかが分かれ目です。単なる値下がりでは難しいことが多いので、その場合は次にお話しする「廃棄」を検討することになります。

在庫を処分するなら「廃棄損」——廃棄した事実の証拠書類が欠かせない

評価損の要件に当てはまらない不良在庫でも、実際に処分(廃棄)すれば、その分を廃棄損として損金にできます。ただし、廃棄損には評価損とは別の注意点があります。

評価損(値下げ)と廃棄損(実際に捨てる)は違う

評価損は、在庫を手元に残したまま帳簿上の価額を引き下げる処理です。これに対して廃棄損は、在庫を実際に廃棄し、その事実にもとづいて帳簿から落とす処理です。売れ残って評価損の要件に当てはまらないものでも、思い切って廃棄すれば、廃棄した事業年度の損金にできます。処分方法には、廃棄のほかに、著しく値下げして販売する方法などもあります。どの方法が適しているかは、在庫の状態や数量によって変わります。

税務調査で問われるのは「本当に廃棄したのか」——証拠を残す

廃棄損でもっとも重要なのは、「本当に廃棄したのか」を後から説明できるようにしておくことです。帳簿上だけ在庫を減らして実際には倉庫に残っている、というのは認められませんし、悪質と判断されれば重加算税の対象になりかねません。そのため、廃棄した事実を裏づける証拠書類を残しておくことが欠かせません。具体的には、廃棄業者の処分証明書や産業廃棄物管理票(マニフェスト)、廃棄を決めた社内の記録(稟議書など)、廃棄する品目・数量のリスト、廃棄時の日付が分かる写真などです。決算対策として在庫を処分する場合は、こうした記録を必ずセットで用意しておきましょう。日々の在庫管理や資金の動きを見える化しておくと、こうした判断もしやすくなります。あわせて

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税理士田澤
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在庫の廃棄そのものは、正しく行えば有効な処理です。ただ、税務調査で問われるのは「実際に捨てたのか」という事実です。私は、廃棄の写真や処分業者の書類、廃棄リストを決算の資料として残しておくようにお願いしています。証拠がそろっていれば、廃棄損は堂々と説明できます。

まとめ|決算前の利益調整は「当期に属するか」と「事実の裏づけ」がすべて

決算前の未払費用・不良在庫の扱いについて、要点を振り返ります。

この記事のまとめ

  • 決算前にできる適正な利益調整は、当期に帰属する費用・損失を正しく計上すること。来期分の先取りや実態のない損失づくりは認められない
  • 費用の前倒しの多くは「税金の繰り延べ」で、トータルの税負担が消えるわけではない。資金繰りへの影響も見る
  • 未払費用・未払金は「債務が確定しているか」で判断する(債務確定基準の3要件)。支払済みかどうかではない
  • 短期前払費用の特例は、1年以内の役務・毎期継続適用が前提。都合のよい使い分けや、収益に対応させるべきものは対象外
  • 棚卸資産の評価損は、災害による著しい損傷・著しい陳腐化などの限定された事実がある場合のみ。単なる値下がり・過剰生産・建値変更では計上できない
  • 不良在庫を処分するなら廃棄損。ただし「実際に廃棄した事実」を証明する証拠書類(処分証明書・マニフェスト・写真・廃棄リスト等)を残すことが不可欠

決算前の利益調整は、「当期に帰属する費用・損失かどうか」と「事実の裏づけがあるかどうか」の2点に尽きます。この2つを外した処理は、たとえ節税に見えても、税務調査で否認されて追徴税・加算税を招くリスクがあります。また、利益を過度に圧縮した決算書は、金融機関の融資審査で不利に働くこともあります。銀行が決算書のどこを見るかは

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で解説していますので、あわせてご覧ください。個別の判断は事業の実態によって変わり、税制も改正される可能性があるため、実行の前には最新の国税庁の情報をご確認いただくか、顧問税理士にご相談ください。

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