マイクロ法人を設立した一人社長が老後資金を準備するとき、よく候補にあがるのが「企業型DC(企業型確定拠出年金)」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。どちらも掛金を積み立てて自分で運用し、原則60歳以降に受け取る制度で、税制上の優遇がある点も共通しています。ただし、一番の違いは「掛金を会社が出すか、自分の財布から出すか」です。この違いから、使える掛金の上限や税金の効き方、手数料の負担者まで変わってきます。
この記事では、マイクロ法人の一人社長という前提で、企業型DCとiDeCoの掛金上限・税制・手数料の違いを税理士がわかりやすく比較し、選ぶときの判断材料と加入前の注意点を整理します。数値はすべて2026年(令和8年)時点の現行制度に基づいています。
企業型DCとiDeCoの違いとは?一人社長が選べる2つの確定拠出年金

まずは、企業型DCとiDeCoがそれぞれどんな制度で、どこが根本的に違うのかを整理します。マイクロ法人を設立して社会保険(厚生年金)に加入している一人社長は、原則としてどちらも利用できる立場にあります。マイクロ法人と個人事業を組み合わせる働き方そのものについては
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どちらも「自分で運用して積み立てる」確定拠出年金
企業型DCもiDeCoも、正式には「確定拠出年金」という同じ制度の枠組みに属します。厚生労働省の解説によると、確定拠出年金は、拠出された掛金を加入者本人が自分で運用し、その運用の結果で受け取る額が決まる年金制度です。あらかじめ受け取る額が約束されているわけではなく、運用がうまくいけば増え、うまくいかなければ元本を下回ることもある点は、どちらの制度にも共通する仕組みです。原則として60歳以降に、一時金または年金の形で受け取ります。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(確定拠出年金は拠出された掛金を加入者が自己責任で運用する制度)
一番の違いは「掛金を会社が出すか、自分で出すか」
同じ確定拠出年金でも、企業型DCとiDeCoでは掛金を負担する主体が違います。企業型DCは、会社(マイクロ法人)が制度を導入し、会社が掛金を拠出します。一方、iDeCoは加入者本人が個人として申し込み、自分の口座から掛金を払います。一人社長の場合、企業型DCは「会社の役員報酬とは別に、会社がさらに掛金を出す」イメージ、iDeCoは「受け取った役員報酬の中から自分で積み立てる」イメージです。この「掛金の出し手」の違いが、次に見る掛金の上限や税金の効き方の差につながっていきます。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(企業型は事業主が掛金を拠出/個人型(iDeCo)は加入者本人が掛金を拠出)
「企業型DCは大きな会社の制度」というイメージをお持ちの方も多いのですが、社会保険に加入している一人社長のマイクロ法人でも導入できる仕組みです。まずは「会社が出すのか、自分が出すのか」という一番の違いを押さえておくと、後の比較がぐっと分かりやすくなります。
掛金の上限が違う|一人社長の企業型DCとiDeCoの拠出限度額

掛金の「出し手」が違うことに加えて、毎月積み立てられる掛金の上限(拠出限度額)も制度によって異なります。ここが一人社長にとって、選択を左右する大きなポイントです。
企業型DCは会社が月5.5万円まで拠出できる(他の企業年金がない場合)
厚生労働省の資料によると、企業型DCで会社が拠出できる事業主掛金には上限があり、ほかに確定給付企業年金(DB)などの企業年金がない場合は、月額5.5万円(年額66万円)までとされています。マイクロ法人の一人社長は、通常ほかの企業年金を持っていないため、この月5.5万円が上限の目安になります。iDeCoと比べて枠が大きく、老後資金をまとまった額で準備しやすいのが特徴です。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(他の企業年金がない場合の企業型DCの事業主掛金は月額5.5万円が上限)
iDeCoは企業年金なしの会社員・役員で月2.3万円まで
一方、iDeCoの拠出限度額は、加入者がどの立場かによって決まっています。iDeCo公式(国民年金基金連合会)の解説によると、令和6年12月時点で、厚生年金に加入していて企業年金がない会社員・役員(第2号被保険者)のiDeCoの上限は月2.3万円(年額27.6万円)です。掛金は月5,000円から1,000円単位で設定できます。マイクロ法人の役員として厚生年金に加入している一人社長がiDeCoだけを使う場合は、この月2.3万円が上限になります。なお、個人事業主(第1号被保険者)としてiDeCoに入る場合の上限は月6.8万円と、立場によって枠が異なります。
出典:iDeCo公式(国民年金基金連合会)「iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等」(企業年金がない第2号被保険者は月2.3万円・第1号被保険者は月6.8万円・掛金は月5,000円から1,000円単位)
企業型DCとiDeCoを併用するとiDeCoの枠は小さくなる
企業型DCとiDeCoは、条件を満たせば併用もできますが、両方を上限まで使えるわけではありません。iDeCo公式の解説によると、企業型DCに加入している人がiDeCoにも加入する場合、iDeCoの上限は「月5.5万円から各月の事業主掛金を差し引いた額(上限は月2万円)」に制限されます。たとえば会社が企業型DCで月5.5万円を拠出していると、iDeCoに回せる枠は残らない計算になります。「企業型DCで大きく積み立てつつ、iDeCoも上限まで」という使い方はできない点は、併用を考えるときに必ず押さえておきたいところです。
出典:iDeCo公式(国民年金基金連合会)「iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等」(企業型DC加入者のiDeCo上限は5.5万円から各月の事業主掛金を控除した額・上限月2万円)
掛金の枠だけを見ると「企業型DCのほうが大きくてお得」に見えますが、上限まで拠出するには、それだけの資金を会社から継続して出し続ける必要があります。枠の大きさは魅力ですが、無理のない金額で続けられるかどうかが実際には大切です。
税金の効き方が違う|会社の損金と個人の所得控除

企業型DCとiDeCoは、掛金の出し手が違うことで、税金の軽くなり方(どこに効くか)も変わります。ここは一人社長にとって、手取りや会社の利益に直結する重要な違いです。
企業型DCの掛金は会社の全額損金・本人の給与にはならない
企業型DCで会社が拠出する掛金は、会社側で全額を損金に算入できます。厚生労働省の資料によると、事業主が拠出した掛金は全額損金算入とされ、かつ加入者本人の給与所得にはなりません。つまり、会社にとっては利益から差し引ける経費になり、社長個人にとっては役員報酬のように所得税・住民税が課される「給与」にはならない、という扱いです。給与ではないため、一般に社会保険料の計算のもとになる報酬にも含まれないと説明されますが、個別の取扱いは日本年金機構などの最新情報もあわせてご確認ください。会社の損金になる制度という点では、取引先の倒産に備える経営セーフティ共済とも似ていますが、目的も出口も異なります。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(事業主が拠出した掛金は全額損金算入・加入者本人の給与所得にはならない)
iDeCoの掛金は本人の「所得控除」になる
これに対してiDeCoは、加入者本人が払った掛金が、その人の「小規模企業共済等掛金控除」として全額所得控除になります。国税庁の解説によると、確定拠出年金法にもとづく個人型年金加入者掛金(iDeCoの掛金)は小規模企業共済等掛金控除の対象で、控除できる金額はその年に支払った掛金の全額です。つまりiDeCoは、社長個人が受け取った役員報酬の中から掛金を払い、その分だけ本人の課税所得を下げる仕組みです。会社の損金になる企業型DCと、個人の所得控除になるiDeCoとで、税金が効く「場所」が違うわけです。掛金が全額所得控除になるという点は、経営者の退職金づくりに使われる小規模企業共済と同じ考え方で、その仕組みと出口の注意点は
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出典:国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」(確定拠出年金法の個人型年金加入者掛金は控除対象・その年に支払った全額を控除)
受け取るときの税金はどちらも共通
積み立てるときの効き方は違いますが、受け取るときの税金の扱いは企業型DCもiDeCoも共通です。厚生労働省の資料によると、確定拠出年金を一時金として受け取る場合は退職所得控除、年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。いずれも税制上の優遇が用意されていますが、実際の税額は、ほかの退職金や公的年金の額、受け取る年齢や方法によって変わります。どの受け取り方が有利かは個別の事情によって結論が変わるため、受け取りを考える段階で一度確認しておくと安心です。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(給付は一時金=退職所得控除・年金=公的年金等控除の対象)
「企業型DCは会社の損金、iDeCoは個人の所得控除」という効く場所の違いは、一人社長にとってとても大事です。会社の利益を圧縮したいのか、個人の所得税・住民税を軽くしたいのか、目的によって向いている制度が変わってきます。私はご相談のとき、会社と個人の両方の数字を見ながら整理しています。
一時金で受け取る場合に使う退職所得のしくみと、会社から受け取る役員退職金と時期が近い場合に退職所得控除が調整される点は、次の記事でくわしく解説しています。
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手数料と手間が違う|本人負担のiDeCoと会社負担の企業型DC

税制と並んで見落とせないのが、手数料と手続きの手間です。ここも「本人が負担するか、会社が負担するか」で大きく変わります。
iDeCoは手数料が本人負担だが手軽に始められる
iDeCoは、金融機関(運営管理機関)に自分で申し込めば始められる手軽さがあります。iDeCo公式(国民年金基金連合会)の解説によると、iDeCoでは加入時に国民年金基金連合会へ支払う手数料と、掛金を納めるたびの収納手数料がかかり、これらは加入者本人が負担します。さらに事務委託先の金融機関や運営管理機関の手数料もかかりますが、その額は運営管理機関によって異なります。金額の水準は申し込む金融機関で変わるため、正確な手数料は各金融機関の最新の案内でご確認ください。いずれにしても、iDeCoの手数料は社長個人の負担になる点が特徴です。
出典:iDeCo公式(国民年金基金連合会)「よくあるご質問」(加入時手数料・掛金納付ごとの収納手数料は加入者負担/事務委託先・運営管理機関の手数料は運営管理機関により異なる)
企業型DCは口座管理コストも会社負担だが導入・運営に費用と手間がかかる
一方、企業型DCは会社が制度として導入するため、加入者本人(社長)の口座管理手数料は会社が負担します。掛金だけでなく運営にかかるコストも会社の費用(損金)にできるのは、企業型DCならではの利点です。ただしその分、導入時には規約の作成や届出などの手続きが必要で、導入費用や毎月の運営管理費用もかかります。金額や必要な手続きは運営管理機関によって異なるため、複数の運営管理機関を比べて、導入と運営のコストが掛金に見合うかを確認することが大切です。手軽に始められるiDeCoに対し、企業型DCは「会社の制度をつくる」手間とコストがかかると理解しておきましょう。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(企業型DCは事業主が制度を実施し掛金を拠出する仕組み)
「企業型DCは口座の手数料まで会社の損金にできてお得」という説明を目にしますが、その手数料以上に導入・運営のコストがかかることもあります。掛金をいくら積み立てたいかによって、コストが見合うかどうかは変わります。私は、想定する掛金額とコストを並べて、無理なく続けられるかを一緒に確認するようにしています。
一人社長はどう選ぶ?判断の目安と加入前の注意点

ここまでの違いを踏まえて、マイクロ法人の一人社長が企業型DCとiDeCoを選ぶときの一般的な目安と、どちらを選ぶ場合でも共通する注意点を整理します。どちらが有利かは個別の事情で変わるため、あくまで判断材料としてご覧ください。
手軽さ・少額ならiDeCo、掛金を大きく・会社の損金にしたいなら企業型DC
一般的な目安として、「まずは少額から手軽に始めたい」「手続きの手間をかけたくない」という場合は、個人で申し込めるiDeCoが向いています。一方、「役員報酬とは別に会社からまとまった額を積み立てたい」「掛金を会社の損金にして会社の利益とあわせて考えたい」という場合は、月5.5万円まで拠出できる企業型DCが選択肢になります。ただし企業型DCは導入・運営のコストと手間がかかるため、想定する掛金額に対してコストが見合うかがポイントです。掛金額を決めるときは、会社と個人の資金繰りに無理がないかを必ず確認しましょう。毎月の資金の動きを見える化する方法は
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「利益は出ているはずなのに、月末になるとお金が足りない気がする」。小さな会社やひとり社長の方から、当事務所でもよくいただくご相談です。その不安を解消する最初の一歩が、資金繰り表を作ることです。結論から ...
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出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(企業型DCの事業主掛金は月5.5万円が上限〈他の企業年金がない場合〉)
共通の注意点——原則60歳まで引き出せない資金拘束と、今後の制度改正
どちらを選ぶ場合でも共通する注意点があります。まず、確定拠出年金は老後資金づくりの制度なので、積み立てたお金は原則60歳になるまで引き出せません。目先の節税効果だけで掛金を大きくすると、途中で資金が必要になっても使えず、会社や生活の資金繰りを圧迫しかねない点に注意が必要です。また、確定拠出年金は制度改正が続いており、2026年12月にも加入可能年齢や拠出限度額などの見直しが予定されています。掛金の上限などは改正で変わる可能性があるため、実際に加入・変更する際は、iDeCo公式サイトや厚生労働省などの最新情報を必ずご確認ください。法人化やマイクロ法人化そのものを検討している段階の方は、判断の目安をまとめた
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もあわせてご覧ください。
出典:iDeCo公式(国民年金基金連合会)「お知らせ」(2026年12月に確定拠出年金制度の改正〈加入可能年齢・拠出限度額の見直し等〉が予定)
企業型DCもiDeCoも、正しく使えば老後資金づくりと節税を両立できる制度です。ただ、どちらが向いているかは、掛金として無理なく出せる額や、会社と個人のどちらの税金を軽くしたいかによって変わります。「原則60歳まで引き出せない」という資金拘束もあるため、生活と事業の資金に余裕をもたせたうえで、無理のない金額から始めるのが安心です。
まとめ|マイクロ法人の企業型DCとiDeCoは「掛金の出し手」で選ぶ
マイクロ法人の一人社長にとっての企業型DCとiDeCoの違いを、要点で振り返ります。
マイクロ法人の一人社長にとって、企業型DCとiDeCoは「どちらが絶対に得」と決められるものではありません。掛金として無理なく出せる額、会社と個人のどちらの税金を軽くしたいか、導入・運営の手間をかけられるかによって、向いている制度は変わります。まずは「掛金を会社が出すか、自分で出すか」という一番の違いを起点に、掛金の上限・税制・手数料を並べて比べることが、自分に合った選び方の第一歩になります。
当事務所では、青森市・青森県全域・全国のお客さまに、オンラインで税務・経営のご相談を承っています。「マイクロ法人で企業型DCとiDeCoのどちらがよいか」「掛金はいくらまでが無理がないか」「会社と個人のどちらの税金を軽くすべきか」といった段階からで大丈夫です。目先の節税だけでなく、資金繰りや受け取り時の税金、ほかの制度との兼ね合いまで含めて、無理のない使い方を一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。
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