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役員退職金の税金と計算方法|功績倍率の考え方と損金算入の基準

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税理士 田澤壱高

青森市を中心に活動する、ひとり税理士です。 クラウド会計・オンラインでのやり取りを基本とし、 記帳や資料管理の手間をできるだけ減らすことを大切にしています。 完全なペーパーレス運用を目指しながら、 経営判断に集中できる環境づくりを支援します。

一人社長や中小企業の経営者にとって、自分や家族役員への退職金は「最後にして最大の報酬設計」といわれることがあります。役員退職金は、受け取る側の税負担が比較的軽く、支払う会社側も原則として損金にできる仕組みだからです。ただし、いくらでも自由に出せるわけではありません。「不相当に高額」と判断された部分は損金にできず、手続きを欠くと支給そのものの説明が難しくなります。この記事では、役員退職金にかかる税金のしくみ、功績倍率を使った計算方法の考え方、いくらまで損金算入できるかの判定基準、議事録などの手続きと注意点を、税理士が一次情報に基づいてわかりやすく解説します。

役員退職金にかかる税金|退職所得控除と2分の1課税のしくみ

まずは、役員退職金を受け取る側の税金から見ていきます。役員退職金が「税負担の軽い受け取り方」といわれる理由は、退職金が税金の計算上「退職所得」という独立した区分で扱われるからです。

退職金は「退職所得」として他の所得と分けて計算される

会社から受け取る退職金は、毎月の役員報酬(給与所得)とは別に、退職所得として課税されます。退職所得は原則として他の所得と合算しない分離課税で、後で見る退職所得控除を差し引いたうえ、残りを2分の1にしてから税率をかけます。長年の勤務に対するまとめての支払いという性格から、毎月の報酬で受け取るよりも税負担が軽くなりやすい仕組みになっています

なお、自分自身に退職金を支払えるのは会社(法人)だからこそで、個人事業主には「自分への退職金」を経費にする仕組みがありません。法人成りを検討中の方は、判断基準を整理した次の記事もあわせてご覧ください。

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法人成りのタイミングはいつがベスト?所得・売上・消費税インボイス・社会保険の4つの目安から、個人事業主が法人化すべきかの判断基準を税理士がわかりやすく解説。マイクロ法人のデメリットも紹介します。

退職所得控除は勤続年数で決まる

退職所得を計算するときは、まず収入金額から退職所得控除額を差し引きます。控除額は勤続年数(役員としての在任期間)に応じて次のように計算されます。

退職所得控除額の計算(勤続年数=A)

  • 勤続年数20年以下:40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円)
  • 勤続年数20年超:800万円 + 70万円 ×(A − 20年)

在任期間が長いほど控除は大きくなり、そのぶん課税される退職所得は小さくなります。

勤続5年以下の役員は「2分の1」が使えない

注意したいのが、役員としての勤続年数が短い場合です。国税庁の解説では、役員等勤続年数が5年以下である人が支払を受ける退職手当等のうち、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものは「特定役員退職手当等」とされ、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額がそのまま退職所得になります。つまり2分の1計算が適用されません。会社を設立して間もない時期に退職金の支給を考える場合は、この点を必ず確認してください。

受け取るときの手続きはシンプル

退職金の支払いを受けるときに「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出すれば、支払者側が所得税額および復興特別所得税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は必要ありません。

税理士田澤
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退職所得の優遇は、長年働いてきたことへのまとめての支払いだからこそ認められているものです。だからこそ、「優遇があるから使う」のではなく、在任期間や会社の資金とのバランスの中で設計することが大切です。設立から5年以内の短期での支給は2分の1が使えないなど、思い込みで進めると結果が変わる論点もあります。

役員退職金の計算方法と相場|「功績倍率」とは何か

次に、支給額をどう決めるかです。「役員退職金 功績倍率」で調べている方が多いように、実務では功績倍率という考え方が広く知られています。ただ、この言葉は正しく理解しておかないと危険です。

功績倍率法とは——最終月額報酬×勤続年数×功績倍率

功績倍率法とは、役員退職金の水準を考えるときに実務や裁判例で広く用いられてきた計算方法です。国税庁の税務大学校の研究論文では、役員退職給与が支給されている同業類似法人を選定したうえ、その功績倍率(退職給与が役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額の何倍に当たるかという倍率)に、その役員の最終月額報酬と勤続年数を乗じて適正額を算出する方法と説明されています。算式のかたちにすると「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」です。

「◯倍までなら安全」という法律上の基準はない

ここで大切なのは、功績倍率は法律で定められた計算式ではなく、「この倍率までなら必ず認められる」という保証もないということです。課税実務や裁判では、同業種で事業規模が類似する法人の功績倍率の平均値(平均功績倍率)などと比較して、支給額が高すぎないかが事後的に検証されます。比較の対象になる類似法人のデータは会社側からは見えないため、自社で「◯倍だから大丈夫」と言い切ることはそもそもできません。世間で語られる倍率の目安は、あくまで参考情報として距離を置いて見るべきものです。

「相場はいくら」と金額で言い切れない理由

同じ理由で、役員退職金の相場を金額で示すことにも意味がありません。適正といえる水準は、その役員の最終月額報酬、在任期間、職務の内容、会社の規模や業種によって一社ごとに変わるからです。金額の目安から入るのではなく、次の章で見る「損金として認められる判定の枠組み」から逆算して考えるのが、遠回りに見えて確実な進め方です。

税理士田澤
税理士田澤

「功績倍率は◯倍までなら大丈夫と聞いた」というご相談をいただくことがありますが、そのような決まりはどこにもありません。倍率はあくまで結果を検証するときの物差しのひとつです。ご自身の会社にとって説明のつく金額かどうか、という視点で一緒に考えていきましょう。

役員退職金はいくらまで損金算入できる?「不相当に高額」の判定基準

会社側から見たときの最大の論点が、支給した退職金をどこまで損金(法人税の計算上の経費)にできるかです。

役員退職金は原則として損金にできる

毎月の役員報酬は、定期同額給与などの決められた支給方法でなければ損金にできませんが、退職給与(業績連動給与に該当しないもの)はこの3類型の縛りの対象から除かれています(法人税法34条1項かっこ書)。つまり、通常の役員退職金は、支給方法の型に縛られず、原則として損金に算入できます。

ただし「不相当に高額な部分」は損金にならない

一方で、法人税法34条2項は、役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金の額に算入しないと定めています。退職金も役員給与の一部としてこのルールの対象です。いったん支給した退職金でも、高すぎると判断された部分は会社の経費にならず、その分だけ法人税の負担が増える結果になりかねません

高すぎるかどうかは3つの要素で判定される

では、何をもって「不相当に高額」と判断されるのでしょうか。法人税法施行令70条2号は、退職給与について次の要素などに照らして、退職給与として相当であると認められる金額を超える部分を損金不算入とすると定めています。

退職給与の過大判定で見られる要素(法人税法施行令70条2号)

  • その役員が会社の業務に従事した期間
  • その退職の事情
  • 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況 など

判定の軸は「在任期間・退職の事情・類似法人との比較」の3つで、前の章の功績倍率法は、このうち類似法人との比較を数値化する手法として使われてきたものです。毎月の役員報酬側にも同じ発想の過大判定があり、家族役員の報酬について次の記事で詳しく解説しています。

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税理士田澤
税理士田澤

「いくらまでなら大丈夫ですか」というご質問には、正直にいえば誰も金額で即答できません。ただ、判定の枠組みははっきりしています。在任期間と職務への貢献を説明できる範囲で設計すれば、過度に恐れる必要はありません。迷ったら、支給を決める前の段階でご相談ください。

役員退職金の議事録と手続き|損金算入のタイミング

金額の考え方を押さえたら、次は手続きです。役員退職金は、決議と記録がそろって初めて実行できます。一人社長の会社でも省略はできません。

一人社長でも株主総会の決議と議事録が出発点

役員の退職金は、定款に定めがある場合を除き、株主総会の決議で支給を決めるのが基本です。株主が自分ひとりの会社でも、決議を行い議事録を残すという手続きは同じです。流れは次のようになります。

STEP 1 支給方針の整理

退任の時期を決め、退職金の額・算定根拠(最終月額報酬・在任期間など)を整理する

STEP 2 株主総会での決議

退職金の支給・金額(または算定方法)・支給時期を決議する

STEP 3 議事録の作成・保存

決議の内容を議事録に残し、算定根拠の資料とあわせて保存する

STEP 4 支給と源泉徴収

退職所得の受給に関する申告書を受け取り、所得税等を源泉徴収して支給する

議事録と算定根拠の記録は、退職金の金額を後から説明するための最も基本的な証拠になります。毎月の役員報酬の決め方・変え方についても、同じく手続きが重要です。

一人社長の役員報酬の決め方と金額の目安・途中で変えられないルールを解説する記事のアイキャッチ
一人社長の役員報酬の決め方|金額の目安と途中で変えられないルール

会社を設立して一人社長になると、自分の給料にあたる役員報酬を、自分でいくらに設定するかを決めることになります。ところが役員報酬は、従業員の給料とは違い「毎月同額にする」「金額を決められるのは事業年度の ...

損金算入の時期は「決議で確定した日」の事業年度

国税庁の解説によると、役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度です。ただし、会社が実際に退職金を支払った事業年度で損金経理をした場合は、その支払った事業年度で損金にすることも認められます。一方、支給の内定段階で未払金に計上しただけでは、損金算入は認められません。決算対策として「決めたことにする」だけの処理は通らない、と理解してください。

税理士田澤
税理士田澤

一人社長の会社では、株主総会といっても実際は自分ひとりです。それでも議事録を残す意味は大きく、税務調査で退職金の説明を求められたとき、決議の記録があるかどうかで話の進み方がまったく変わります。ひな形を整えておけば手間は小さいので、必ず書面にしておきましょう。

分掌変更の退職金と受け取り方の注意点

最後に、役員退職金で特につまずきやすい3つの論点を整理します。

会長や非常勤に退く「分掌変更」の退職金は要件が厳しい

代表取締役を退いて会長や非常勤役員になるなど、役員の地位や職務の内容が大きく変わる「分掌変更」のタイミングで退職金を支給することがあります。国税庁の解説では、分掌変更による退職金が認められるのは、その分掌変更によって役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある場合とされ、例として次のようなケースが挙げられています。

実質的に退職したと同様の事情の例(国税庁タックスアンサーNo.5203)

  • 常勤役員が非常勤役員になったこと(代表権を持つ場合や、実質的に経営上主要な地位を占めている場合を除く)
  • 取締役が監査役になったこと(実質的に経営上主要な地位を占めている場合や、大株主である場合を除く)
  • 分掌変更の後の給与がおおむね50パーセント以上減少したこと(分掌変更の後も経営上主要な地位を占めている場合を除く)

いずれも「実権が残っていないこと」が前提です。肩書きだけを変えて経営の実権が残ったままの退職金は、退職給与とは認められないおそれがあります。また、分掌変更による退職金を未払金等に計上した場合は、原則として退職金に含まれない点にも注意が必要です。

iDeCo・企業型DCの一時金と受け取る「順番」に注意

退職所得控除は、近い時期に複数の退職金・一時金を受け取ると、勤続期間の重複部分について調整され、満額使えないことがあります。会社の退職金を受け取る年の前年以前4年内に他の退職手当等を受けている場合が調整の対象ですが、iDeCoや企業型DCの老齢給付金の一時金については、令和8年1月1日以後に支払を受けるものから、対象期間が「前年以前9年内」に広がっています(所得税法施行令70条)。受け取る順番と間隔で税額が変わる、個別性の高い論点ですので、受け取り時期が近づく前に確認しておくことをおすすめします。企業型DCとiDeCoの制度比較、小規模企業共済の受け取り時の税金は、それぞれ次の記事で解説しています。

マイクロ法人の一人社長が企業型DCとiDeCoのどちらを選ぶか掛金・税制・手数料を比較する記事のアイキャッチ
マイクロ法人は企業型DCとiDeCoどっち?一人社長の掛金・税制・手数料を比較

マイクロ法人を設立した一人社長が老後資金を準備するとき、よく候補にあがるのが「企業型DC(企業型確定拠出年金)」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。どちらも掛金を積み立てて自分で運用し、原則6 ...

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小規模企業共済のデメリット|任意解約の元本割れと出口の税金の注意点

小規模企業共済は、個人事業主や会社の役員が「自分の退職金」を積み立てながら、掛金の全額を所得控除にできる制度として広く知られています。節税と老後資金づくりを同時にできるため、経営者に人気の高い制度です ...

死亡退職金は相続税の対象になる

在任中に経営者が亡くなり、遺族に死亡退職金を支給する場合は、所得税ではなく相続税の話になります。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等は相続税の課税対象となり、相続人が受け取る場合は「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額があります。生前に受け取る退職金とは課税の仕組みがまったく異なるため、万一への備えとして知っておきたい論点です。

税理士田澤
税理士田澤

退職金は「いくら出すか」だけでなく、「いつ・どの順番で受け取るか」で結果が変わります。特にiDeCoや小規模企業共済を併用している経営者の方は、出口が近づいてからでは選択肢が狭まってしまうことも。受け取りの5年以上前から設計を始めるのが理想です。

役員退職金の税金と功績倍率まとめ|金額より先に「説明できる根拠」を

役員退職金について、税金のしくみ・計算方法・損金算入の基準・手続き・注意点を見てきました。要点を振り返ります。

この記事のまとめ

  • 退職金は退職所得として分離課税され、退職所得控除と2分の1計算で税負担が軽くなりやすい(役員等勤続年数5年以下は2分の1が使えない)
  • 功績倍率法(最終月額報酬×勤続年数×功績倍率)は実務・裁判例で使われる検証方法であり、「◯倍まで安全」という法律上の基準ではない
  • 役員退職金は原則損金にできるが、不相当に高額な部分は損金不算入(法人税法34条2項)。判定要素は在任期間・退職の事情・類似法人の支給状況(施行令70条2号)
  • 株主総会の決議と議事録が出発点。損金算入は原則、決議等で額が確定した日の事業年度(支払年度の損金経理も可・内定段階の未払計上は不可)
  • 分掌変更の退職金は「実質的に退職したと同様の事情」が必要。iDeCo等の一時金とは受け取る順番・間隔に注意。死亡退職金は相続税の対象

役員退職金は、金額の目安から入ると判断を誤りやすいテーマです。在任期間と職務への貢献という根拠、株主総会の決議と議事録という手続き、そして受け取り方の設計。この3つがそろえば、退職金は経営者の長年の働きに正当に報いる、納得感のある仕組みになります。

税理士田澤
税理士田澤

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