一人社長や中小企業の経営者が、配偶者や親などの家族を役員にして役員報酬を支払う——これは、家族に会社の経営を手伝ってもらいながら所得を分け、世帯全体の税負担を見直す方法として語られることがあります。家族への役員報酬も、要件を満たせば会社の経費(損金)にできる正規のやり方です。しかし、「家族だからいくらでも払える」わけではありません。役員報酬には税務上「いくらまでなら認められるか」の目安があり、これを外すと過大な部分が損金にできない、勤務の実態がないと報酬そのものが問題になる、といったリスクがあります。
この記事では、家族を役員にする場合の役員報酬の考え方と、使う前に知っておきたい注意点を、税理士がわかりやすく解説します。
家族を役員にして役員報酬を出す仕組みと「所得分散」の考え方

まずは、家族を役員にして役員報酬を出すとはどういうことかを整理します。役員報酬全体の決め方は
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一人社長の役員報酬の決め方|金額の目安と途中で変えられないルール
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家族への役員報酬も損金にできる
会社が役員に支払う給与は、従業員の給料と違い、損金にできる支給方法が原則として決まっています。国税庁の解説によると、損金の額に算入できる役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つのいずれかに当てはまるものです。これは、配偶者や親族といった家族を役員にした場合でも同じで、要件を満たしていれば家族への役員報酬も会社の損金にできます。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和7年4月1日現在法令等)
「所得分散」で世帯の負担が変わることがある
家族を役員にする動機としてよく挙げられるのが、所得を分ける効果です。所得税は所得が大きいほど税率が高くなる累進課税のため、経営者ひとりに報酬を集中させるより、実際に働いている家族にも報酬を分けたほうが、世帯全体でみたときの税負担が軽くなることがあります。給与を受け取る人ごとに給与所得控除が使える点も、こう言われる理由の一つです。
ただし、これはあくまで家族が実際にその報酬に見合う仕事をしていることが前提です。次の章から見ていくように、報酬の額や勤務の実態しだいでは、思うように経費にできないこともあります。
家族を役員にすること自体は、まったく問題のない正規の方法です。実際に経営や実務を手伝ってくれている配偶者やご家族に、その働きに応じた報酬をお支払いするのはごく自然なことです。注意が必要になるのは、「税金が減るから」という理由が先に立ち、報酬の額や勤務の実態が置き去りになったときです。
役員報酬には「いくらまで」の目安がある——過大役員給与の損金不算入

家族への役員報酬を考えるうえで、まず知っておきたいのが「いくらまでなら損金にできるか」という論点です。役員報酬は、高すぎると全額が経費として認められるわけではありません。
不相当に高額な部分は損金にできない
法人税法では、役員に対する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されないと定められています(法人税法34条2項)。つまり、いったん支給した役員報酬でも、高すぎると判断された部分は会社の経費にならず、その分だけ法人税の対象になります。これは家族役員かどうかを問わず、役員報酬全体に共通するルールです。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」(不相当に高額な部分は損金不算入・法人税法34条2項)/令和7年4月1日現在法令等
「相当かどうか」は実質基準と形式基準で判断される
では、いくらなら「相当」で、いくらから「不相当に高額」なのでしょうか。法人税法施行令70条1号は、役員給与が高すぎるかどうかを、大きく2つの基準で判定するとしています。
一つは実質基準です。役員の職務の内容、その会社の収益や使用人に対する給与の支給状況、同じ業種で事業規模が似た会社の役員給与の支給状況などに照らして、その役員の職務に対する対価として相当と認められる金額を超える部分が、不相当に高額とされます。もう一つは形式基準で、定款の規定や株主総会などの決議で定めた役員給与の限度額を超える部分が対象になります。実務では、この2つで計算した金額のうち多い方が損金不算入になると考えられています。金額の目安に決まった計算式があるわけではなく、職務の内容に見合っているかどうかが軸になります。
出典:国税庁 質疑応答事例「過大役員給与の判定基準」(法人税法施行令70条1号イ・ロ)
ここで大切なのは、「家族だから特別に高くできる/低くしないといけない」という話ではないということです。判断の軸はあくまで、その役員が実際にどんな職務を担い、それに見合った報酬かどうか。家族役員でも他の役員と同じ物差しで見られる、と考えていただくのがよいと思います。
毎月の報酬だけでなく、退職金にも「不相当に高額な部分は損金にならない」という同じ発想の判定があります。役員退職金の考え方と手続きは次の記事で解説しています。
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【最大の注意点】勤務の実態がない家族役員は否認されやすい

家族を役員にするときに、もっとも注意したいのが勤務の実態です。名前だけ役員にして報酬を出しても、実際の職務が伴っていなければ、その報酬は「職務に対する対価」とは認められにくくなります。
実態のない報酬は「職務の対価」とはいえない
前の章で見たとおり、役員報酬が相当かどうかは、役員の職務の内容などに照らして判断されます。裏を返せば、ほとんど経営や実務に関わっていない家族に支払う役員報酬は、職務の対価としての裏づけが弱く、不相当に高額と判断されやすくなるということです。とくに、常勤ではなく非常勤で関わる家族役員の場合、「実際にどんな仕事をしているのか」が問われやすくなります。
その結果、勤務の実態に見合わない部分の役員報酬は損金として認められず、会社は経費にできないのに社会保険料や源泉所得税だけはかかる、という不利益につながることがあります。「所得を分けられるから」という理由だけで、働きの実態がない家族に報酬を出すのは避けるべきです。
出典:国税庁 質疑応答事例「過大役員給与の判定基準」/国税庁 タックスアンサー No.5211(令和7年4月1日現在法令等)
職務の内容を説明できるようにしておく
こうしたリスクを避けるには、家族役員が実際に担っている職務を、あとから説明できる形にしておくことが大切です。どんな業務を、どのくらいの頻度で担当しているのか、役員としての職責は何か。株主総会や取締役会の議事録、職務の分担を示す記録などを整えておくと、報酬の根拠を示しやすくなります。報酬の額も、その職務の内容に見合った水準にそろえておくことが基本です。
「配偶者に月◯万円払えば税金が減る」といった金額の話から入ってしまうと、実態が後回しになりがちです。順番は逆で、まず家族にどんな仕事を担ってもらうかを決め、その職務に見合う報酬はいくらか、と考えるのが安全です。実態が伴っていれば、報酬の説明もぐっとしやすくなります。
家族役員ならではの落とし穴——みなし役員・使用人兼務役員・社会保険

家族が関わる会社では、家族役員特有の論点がいくつかあります。ここでは、見落としやすい「みなし役員」「使用人兼務役員」「社会保険」の3つを整理します。
役員にしていなくても「みなし役員」になることがある
国税庁の解説によると、法人税法上の役員には、取締役などの会社法上の役員だけでなく、使用人以外で実質的に経営に従事している人や、同族会社の使用人のうち一定の持株要件を満たして経営に従事している人(みなし役員)も含まれます。同族会社の使用人については、その人の属する株主グループなどの所有割合が50パーセントを超え、そのグループの所有割合が10パーセント超、本人(配偶者などを含む)の所有割合が5パーセント超といった要件に当てはまり、かつ経営に従事している場合に、みなし役員として扱われます。
家族に「役員」の肩書きを付けず従業員として給与を払っていても、経営に従事し持株要件を満たせばみなし役員となり、役員給与のルール(賞与が原則損金にならない等)が適用される点に注意が必要です。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5200「役員の範囲」(みなし役員・法人税法施行令7条)/令和7年4月1日現在法令等
家族が同族株主だと「使用人兼務役員」になれないことがある
役員でありながら部長や工場長などの使用人の職務も兼ねる「使用人兼務役員」は、使用人分の給与や賞与を損金にできる余地があります。ただし、国税庁の解説によると、代表取締役や副社長・専務・常務などのほか、同族会社の役員で、株主グループの所有割合が50パーセント超・グループの所有割合が10パーセント超・本人の所有割合が5パーセント超という要件をすべて満たす人は、使用人兼務役員になれません。株式の多くを家族で持っている会社では、家族役員がこの要件に当てはまり、使用人兼務役員として扱えないことがあります。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5205「役員のうち使用人兼務役員になれない人」/令和7年4月1日現在法令等
役員報酬を出せば社会保険の負担も生じる
家族に役員報酬を支払うと、その報酬に応じて社会保険料の負担も生じます。目先の所得税だけでなく、会社と本人が負担する社会保険料、そして将来受け取る年金や手当まで含めて考える必要があります。役員報酬や役員賞与と社会保険の関係については
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役員賞与で社会保険料は減らせる?事前確定届出給与を使う前に知っておきたいリスク
一人社長や中小企業の経営者向けに、「役員報酬の月額を低く抑え、そのかわりに年1回まとまった役員賞与を出せば社会保険料を減らせる」という方法が語られることがあります。この賞与を会社の経費(損金)にするた ...
でも解説していますので、あわせてご覧ください。
家族役員は「税金が減る」という一面だけが注目されがちですが、実際にはみなし役員の判定や社会保険の負担など、周辺の論点が意外と多いテーマです。会社の株主構成や家族の関わり方によって結論が変わるので、自己判断で進める前に一度整理しておくと安心です。
家族役員の報酬を決めるときの実務上の注意点

ここまでリスクを見てきましたが、家族を役員にして報酬を支払うこと自体は、実態が伴っていれば問題のない方法です。最後に、家族役員の報酬を決めるときに押さえておきたい実務上のポイントを整理します。
「実態」と「手続き」をそろえる
家族役員の報酬を決めるときは、次の点をそろえておくことが基本です。まず、家族が実際に担う職務の内容を決め、それに見合った報酬額にすること。そして、株主総会などで役員給与の限度額を定め、議事録を残しておくこと。報酬の額(実質)と、決議・記録(形式)の両方がそろっていて初めて、報酬の根拠を説明しやすくなります。金額だけを先に決めて、実態や手続きが後回しになる形は避けたいところです。
世帯と会社のトータルで考える
家族役員の報酬は、所得税が下がるかどうかだけで判断しないことが大切です。会社の法人税、家族それぞれの所得税・住民税、社会保険料、将来の年金や手当まで含めた、会社と世帯のトータルで有利かどうかを見て決めるべきものです。あわせて、役員報酬が職務の内容などに照らして高すぎる場合、不相当に高額な部分は損金に算入できないと定められている点にも改めて注意が必要です(法人税法34条2項)。会社設立や法人成りを検討している段階の方は、判断の目安をまとめた
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法人成りのタイミングはいつ?個人事業主が法人化する判断基準
法人成りのタイミングはいつがベスト?所得・売上・消費税インボイス・社会保険の4つの目安から、個人事業主が法人化すべきかの判断基準を税理士がわかりやすく解説。マイクロ法人のデメリットも紹介します。
もご参照ください。
出典:国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」(不相当に高額な部分は損金不算入・法人税法34条2項)/令和7年4月1日現在法令等
家族役員の報酬は、正しく設計すれば会社にとっても家族にとっても納得のいく形にできます。ただ、「税金が減るから」という理由だけで金額を決めると、過大役員給与やみなし役員といった落とし穴にはまりがちです。実態・手続き・トータルの3点を確かめてから決めるのが安心です。
まとめ|家族役員の報酬は「実態に見合う額」が基本
家族を役員にする場合の役員報酬について、要点を振り返ります。
家族を役員にした役員報酬は、実態に見合った額であれば有効な方法ですが、「税金が減るから」という理由だけで額を決めると、過大役員給与の否認や思わぬ社会保険の負担といったリスクを抱えます。まずは家族が担う職務を決め、それに見合う報酬かどうかを軸に、会社と世帯のトータルで判断しましょう。
当事務所では、青森市・青森県全域・全国のお客さまに、オンラインで税務・経営のご相談を承っています。「家族を役員にすべきか」「役員報酬をいくらにすればよいか」といった段階からで大丈夫です。目先の節税だけでなく、勤務の実態や社会保険、将来の給付まで含めて、会社と世帯のトータルで無理のない報酬設計を一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。
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オンライン税務相談のご利用ガイド|お申し込みから当日の流れまで
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